12歳、夏、私。

 

学校を出てすぐまーくんは私に聞いてきた。

「今日は何の日?」

私はドキッとする。

なんだっけ??

私は日にちに弱い。

というよりも数字を覚えるのが大の苦手だ。

唯一覚えているとすれば両親と、私のと、まーくんの誕生日ぐらいかもしれない。

「ええぇっと...今日何日だっけ??」

これだから。

よくこういう質問をしてはお父さんに「お前、学校言ってるのか??」と笑われる。

「7月9日」

まーくんは根気強く待ってくれている。

まーくんがこうやって私に何かを思い出させようとするときは大抵はお祝い事だ。

私は一生懸命思い出そうとする。

去年は何があったっけ??

頭を抱えながら考えていると涼しい風がまるで思い出せとでも言うかのようにポニーテールで出ている私の首筋をなでていった。

あっ...

そういえば去年も...

「思い出した」

とつぶやいてから私はまーくんの方に向いて微笑んだ。

それだけでまーくんは私がきちんとあれから一年が経過したことを思い出したのが分かったようだ。

まーくんも笑顔になる。

「よっし、思い出したご褒美にプレゼントをやろう」

わざと偉そうにまーくんが言う。

「っぶ、何それ??あたし何も用意してないよ」

「俺があげるんだからべつに要らないじゃん。それにまえ行きたがってたケーキ屋さんに一緒について行ってあげるだけだし」

「まーくん憶えてたんだ!」

そういってから私ははっとした。

私今、まーくんって読んじゃった。

中学に入ってからそう呼ばれるの嫌がってたのに。

あたふたしだした私をの気持ちを見透かしたのかまーくんが苦笑した。

「いいよ、俺らだけだったら。学校でそう呼ばれるのが、ちょっと恥ずかしいだけだから」

赤くなった顔を隠すようにそっぽを向くまーくんを見て私の胸がどきんとなる。

むずがゆいような、くすぐったいような気持ちに私は顔を一緒に赤くした。

まーくんは優しい、お兄ちゃんみたい。

といっても私もまーくんも一人っ子だから本物のお兄ちゃんがどんな感じなのかは見当がつかないけど。

あ、でもお兄ちゃん見たいって言うのは変か。

私たち付き合ってるんだし。

と思ったらまたこそばゆくなってきた。

(付き合う前と何が変わったの???)

ふとあゆの言葉を思い出す。

どくん。

今まで火照っていた気持ちが急に冷たくなっていく。

なんともいえない不安が押し寄せてきた。

「ここだろ??」

まーくんに聞かれてはっとする。

いつの間にか私達は目的地についていた。

私はまーくんの背中ばかり見て歩いていたから気づかなかった。

「うん、ありがとうー。私自分で言ってたことすら忘れてた」

「知ってる」

と言いながらまーくんが笑う、つられて私も笑顔になった。

カランカラン。

涼しい音が店内に響く。

このお店はもともと普通のケーキ屋さんだったのを改装して中でくつろげるスペースを作ったらしい。

ここら辺のお店と比べてひときわ古いこのケーキ屋さんはアンティークの造りとアットホームな雰囲気で人気があった。

カウンターでケーキとジュースを買った後私達はちょうど空いたいすに座った。

「ありがとう、まーくん」

甘いものが苦手なまーくんは、甘さ控えめのチーズケーキを一口に切り口に含んでいた。

「ん」

短く返事をした後フォークでクイッとお前も食べろよみたいな合図をしながら自分のケーキに戻る。

私のケーキは雪みたいに真っ白なクリームがいっぱい乗ったイチゴショート。

ここのイチゴショートは今まで食べたどのケーキよりも一番クリームが乗っていて甘かった。

カウンターで頼んだとき、まーくんがこれを見てすごい顔をしていたのが今でも笑える。

私のケーキはまだ半分以上もあるのにまーくんはすでに食べ終わって私を見ながら心なしかニコニコしている。

甘いと思った。

ケーキもこの気持ちも。

胸焼けを起こしそうなほど甘くて、溶けてしまいそうなこの気持ち。

これを感じているのは私だけなんだろうか。

あゆの言葉がまた胸に石を落とした。

 

 

 

まーくんはどう思っているのかな...

 




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