第一章

始まり

 

 

12歳、夏、僕。

 

 

「まーくんっ」

僕の大好きなコがかけてくる。

急がなくてもいいのに一生懸命走ってる姿が可愛い。

僕の名前は小林真。

かけてくる同い年のあのコの名前は山本ひかり。

あのコと僕はよくある幼馴染。

あのコの親と僕の親が昔からの大親友同士で昔から片方の親が忙しいとき片方に預けられるという、なんとも変わった環境で育った。

だから僕とあのコにとって親が4人いるようなもんだった。

そして僕たちもどんなときも一緒にいて一緒に育った、お互い大事な大好きな存在だった。

「まーくん!!」

息があがってる。

暑そうに肩まで伸びた髪をかきあげる。

「急がなくても良かったのに」

ハンカチで額の汗を拭いてあげる。

「だってまーくん、私1時間もまーくんのこと待たせてっ」

また息が切れる。

確かに1時間外で待っていた。

でも暑かったわけでも、退屈していたわけでもない。

初夏。

7月のはじめ。

木々を吹き抜ける風が気持ちいい。

音にするならば、そよそよ、さらさら。

眠くなる陽気にいつもならうとうとしているとこだが、この日だけは眠気も誘ってこない。

ずっと考えていたからだ。

目の前の大好きなコにどうやってこの気持ちを伝えようか...と。

「まーくん?どうしたの?」

だいぶ落ち着いたひかりはうつむいてる僕を不思議に思ったのか僕よりも2、3センチ高い背を折って僕を覗き込んだ。

「ひ...かり...」

僕の声がかすれる。

渇いたのどを潤すようにつばを飲み込む。

くりくりした薄茶色の目は僕の顔をまっすぐ見てる。

そっと手を伸ばしひかりの手をぎゅっとつかむ。

小さい頃はよくって手をつないでいたが高学年に入ってからつながなくなった。

お互い何も言わないけど理由はきっとわかってる。

僕の緊張が手から伝わったのかひかりの手が僕と一緒に冷たくなっていく。

なのに汗はかいていて、およそロマンチックとはいえない光景だっただろう。

でもそんなことあの時の僕たちには関係なかった。

深呼吸してもう一度あのコの名前を呼ぶ。

「ひかり」

手に力が入ってしまう。

でもひかりは何も言わない。

僕の方をまっすぐ見てる。

僕は顔をあげ、きちんとひかりを見た。

そして...

 

 

 

「好きだ」

 

 

 

 

 

ある夏の日、 第三者

 

「好きだ」

 

 

その男の子は言った。

自分の大好きな女の子の目をきちんと見て。

きっと他から見たら、

「ませてるわねぇ」

とか

「初々しいわね」

とか茶化されそうだが男の子は真剣だった。

子供はどんな小さなことでも真剣で一生懸命である。

そしてそれは、今も例外ではなかった。

 

告白されている女の子はいわゆる天然であった。

きっといつもなら、

「私も好きだよ」

と友達口調で明るくかわしていただろう。

しかしその子は鈍感ではなかった。

男の子の言葉を、真剣なまなざしを、想いをきちんとうけとめていた。

 

そして...

 

 

その子は笑った...

 

 

 

 

 

11歳、夏、私。

 

 

私は笑った。

可笑しかったのではない。

ただ、安心させてあげたくて。

まーくんの真剣な顔とは裏腹に繋いだ手が震えていたから。

きっと不安なんだろう。

もしここで私が拒絶したら。

もしここで私が突き放したら。

そんな事ばかりが今彼の頭を支配しているのだろう。

そして一番不安なのは、これで、私達の関係が壊れてしまったらということ。

その時、私は思った。

こんなことで私達の関係が壊れるわけないと。

これまでのように、これからも、一生傍にいるんだと。

離れることはないと。

だから私は言った。

もっと確かな絆を手に入れるために。

 

 

「私も、まーくんが好き...」

 

 

 

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