第二章
誓い
6歳、春、僕。
結婚式の鐘がなる。
神父さんの声が響いて、まるで子守唄みたいだ。
何を言ってるのかまったく分からない。
僕達家族とひかりの家族は、俺達の親の元同級生が結婚するというので、その結婚式に来ていた。
ふと隣を見ると、ひかりがこれから夫婦になるであろう二人を見て、目を輝かせている。
「きれー...」
などとつぶやいている。
そうかな、まぁ、少なくともひかりには似合わないだろうなと心の中で毒ついてみる。
口には出さない。
泣き虫なひかりが聞いたらまた泣くだろうから。
そしたらまたママとパパに怒られてしまう。
暖かい光がステンドグラスから零れ落ちて優しい光を放っている。
うとうとしながら、もう一度、これから誓いを交わす二人に目を向けた。
◇
5歳、春、私。
JUNE BRIDE。
それは真っ白で、ふわふわで、暖かくて、幸せ。
ついつい微笑んでしまう光景に、私は、憧れをもった。
幼心に、結婚式という儀式はとっても神秘的で、憧れた。
神父さんの言葉は呪文のようで、まるで、目の前の二人を幸せにしてあげているように見えた。
「きれー...」
思わずつぶやいた。
そしたらまーくんが隣でなにやらぶつぶつ言っている。
聞こえないけど、また私の悪口だ。
まーくんは前はすっごく優しかったのに。
幼稚園の年長組みに入ってから
ちょっとだけ意地悪になってきた気がする。
でも意地悪なのは口だけで、いつも困ったときには助けてくれるし、私は助けてくれたときのふと見せる優しい笑顔が大好きだった。
でもやっぱり意地悪なのはイヤで、ママにどうすればいい?って聞いたら、
「照れてるのよ、そのうち元に戻るわ」
て笑った。
だからあまり気にしないようにはしているけど、それでも意地悪されたら泣いてしまうのは仕方ないと思う。
でも、今だけはまーくんのつぶやきも気にならなかった。
これから夫婦になる二人の幸せに当てられて私の心は幸せいっぱいだった。
結婚式も終盤に差し掛かり神父さんが二人に向かってなにか質問している。
そしたら二人とも順番に誓いますっていってる。
私は首をかしげた。
誓うって言葉はよく使う言葉だった。
私がなにか悪いことをすると決まってママは私に「もうしないって誓う?」って聞いてきたから。
だから不安になった私はママに
「ねぇ、あの二人なにか悪いことしちゃったの?だからチカウの?」
と聞いてしまった。
そのとき私は相当不安そうな顔していたのだと思う。
お母さんは柔らかく私に笑いかけ、そっと、教えてくれた。
「あれはね、約束なの。ずっと、一生お互いの側にいますって言う約束。」
◇
ある春の日、第三者。
「ずっと、一生お互いの側にいますって言う約束。」
少女の母は言った。
優しく、言い聞かせるように。
優しい日が差す六月の昼下がり。
優しい空気がそこにはあった。
少女の母の言葉はその優しい声とともに、少女とその隣で聞き耳を立てていた少年の心に刻まれていく。
そして二人は思った。
結婚すれば大事な人とずっと一緒にいられるのだと。
大好きで、大事な人と。
そしてその思いはどこまでも真っ直ぐで、暖かかった。