4年生のある日、僕。
いつだったか。
クラスの悪ガキが数人僕の机に近づいてきてリーダーっぽいマツモトというやつが僕に話しかけてきた。
「おい、小林」
僕は友達との話を中断してマツモトの方に何?という顔を向けた。
「お前、山本ひかりと幼馴染なんだって?」
「そうだけど?」
僕はそっけなく返す。
だが相手は気にもせずに続ける。
「仲良いのか?赤ん坊のときから一緒だって聞いたぞ」
「仲なんてよくないよ、ただのクサレエン」
この間TVでやっていた探偵もののアニメで聞いたセリフを言う。
「でも幼馴染なんだろ?」
「しつこいなー、幼馴染でも仲なんてよくないよ。全然話さないし」
それは本当だった。
いつの間にか俺たちはお互いを避けるようになりしゃべる回数も減っていった。
といっても最初に避け始めたのは僕なんだけど。
小学校に入ってから“オンナノコ”と話しているというだけであれこれ言われるのがうざったくて僕はひかりを避け始めた。
最初のほうは「どうしたの?」とか「私何か悪いこと...」とか色々しつこく聞いてきたけどそのうちひかりも僕と距離を置くようになった。
俺がいないとすぐ泣いていたひかりも3年生以降は全く泣かなくなったので兄代わりを担当していた俺としてはもう一緒にいる理由もないような気がしていた。
「そうか?じゃあ問題ねーな!」
何が問題ないのか、とにかくマツモト率いる悪ガキどもはぞろぞろとクラスから出て行った。
小学生の悪ガキというものは何がどう悪いというわけでもないと僕は思う。
ただ人一倍の好奇心、負けん気、反抗心、そしていたずら心が備わっているだけなのだ。
それは子供ならだれでも持っているべきものであると僕は思う。
ただ時々度が過ぎて大人にとってはいたずらではすまない事態になってしまうこともあるのだが、子供達は何処までも自分たちの好奇心を貫いているだけなのだ。
それはさておき放課後、僕はひかりと一緒に帰るため帰り支度が済んでも自分の席から動かなかった。
こればかりは母さんがしつこいのでやめたくてもやめてしまえなかった。
一日の中、唯一僕とひかりが一緒にいる時間だった。
今日もいつもと変わらず何も話すことなく一緒に帰るものだと思っていたのだが少し違った。
いつの間にいなくなったんだろう?
いつもなら一番もたついているひかりが今日は教室からいなくなっている。
ランドセルは机の上にあるからトイレにでも行ったのだろうと思っていたのだが15分以上たっているのに戻ってこない。
今日は見たいアニメがあるから早く帰らなきゃ。
たったそれだけの理由で僕はひかりを探しに行った。
そして思いのほか時間を食った。
大体、最近ひかりとしゃべらないから何処にいるとか見当もつかない。
諦めて教室に戻ろうと普段は使わない廊下を歩いていく。
5、6年生しか使わないその美術室に通りかかったとき誰かの声がした。
「いーじゃん、オレ山本のこと好きだしサー!」
それは昼ごろ聞いたマツモトの声だった。
ガラッ
僕は美術室に入った。
中には体育座りをして隅にうずくまっているひかりとそれを囲んでいるさっきの悪がきたち数名、とマツモト。
「何やってんの、いじめ?」
どっから見てもそんな感じ。
「ちげーよ!告白してんの、邪魔しないでくだサーイ」
マツモトが答えた。
それはまるでやる気のないクラス委員長がめんどくさそうにクラスを注意しているような口調だ。
「もう4時過ぎだよ。先生に見つかったら怒られるよ」
この学校では4年生以下の生徒は4時には学校を出ていなければならない。
なんでも最近物騒だからその対策だそうだ。
母さんに聞いた話だけど。
「うざ、もういいや、帰ろうぜ!」
マツモト達が出て行くと僕はいまだうずくまっているひかりに近づく。
「大丈夫?何があったの?」
ひかりに質問しながら僕はびっくりする。
自分が凄く優しい気持ちになっているのに。
いつもひかりを目の前にするといらいらした。
ちっちゃい時は僕の後ろをくっついて離れないひかりのことを素直に可愛いと思っていたのに、いつの間にかそんなことを考える自分が恥ずかしくて仕方なかった。
でも今日はなんだかとっても優しい気分だ。
そう思った。
恥ずかしさも苛立ちも通り越して目の前のこのこを守ってあげなくちゃって気持ちになった。
「う、ひっく...」
何も言わなかったひかりから小さな声がした。
正直ちょっとあせった。
ひかりが泣くのは久しぶりで、というより話すこと自体が久しぶりでどうすればいいのか分からない。
なんだか今日はあっせってばっか。
そう思うとなんだか色々馬鹿馬鹿しくなってきた。
「ごめんな...」
ふと言葉が溢れる。
「な...んで?まーくんは...わるくない」
ひっくとのどを鳴らしながらひかりが質問する。
「おれ、ひどかったよな?色々と。だからごめん」
何がごめんなのか、ひかりはわけが分からないという顔で僕を見ていた。
そのなんとも気の抜けた泣き顔を見ていたら、なんだかこれからはもっと優しくしてあげられそうなそんな気がした。